研究内容

研究の興味と対象

研究の興味


レアメタル・レアアース資源の探査


世界の最先端産業を支えているのは,レアメタル・レアアースと呼ばれる多種多様な金属元素です.これらは再生可能エネルギー利用や大容量二次電池など,素材としてのみならずエネルギーの生産・貯蔵にも今や不可欠となっています.このように産業上重要なレアメタル・レアアースの資源がどこにどのくらい眠っているのかを明らかにすべく,陸・海両方をターゲットに日々研究を進めています.


<関連する研究成果>

Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.  プレスリリース.pdf

Nakamura et al. (2013) Deep-Sea Research I 174, 1-10.

Nakamura et al. (2015) Geochemical Journal 49, 579-596.

Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. UTokyo Focus

Nakamura et al. (2016) Geochemical Journal 50, 605-619.

Machida et al. (2019) Marine Georesources & Geotechnology  プレスリリース



鉱物資源の成因の解明


自然界に存在する有用な元素や化合物の集合体=「資源」を利用して,人類社会は飛躍的に発展してきました.自然界においてなぜそのようなものができるのか?どんな物質や物理化学過程が関与しているのか?資源の成因を科学的に理解し,資源生成に必要な環境条件を満たす領域を絞り込むことが,新たな資源・鉱床を見つけるための重要な指針となります.


<関連する研究成果>

Nozaki et al. (2013) Scientific Reports 3, 1889. UTokyo Focus

Ohta et al. (2016) Geochemical Journal 50, 591-603.

Machida et al. (2016) Geochemical Journal 50, 539-555. プレスリリース

Kashiwabara et al. (2018) Geochimica et Cosmochimica Acta 240, 274-292.

Ohta et al. (2020) Scientific Reports 10, 9896. プレスリリース

Tanaka et al. (2020) Ore Geology Reviews 119, 103392.



新しい資源の利用に向けた検討


現代社会を支えるレアメタル・レアアースの新たな供給源として,私たちが発見した「レアアース泥」をはじめ,マンガンノジュールや熱水性硫化物,コバルトリッチクラストなどの海底鉱物資源が注目を集めています.その一方で,こうしたフロンティア資源については未解明の部分が多く,有望な資源の探査手法やその採鉱・選鉱・製錬を含む開発技術の確立は,各国がしのぎを削っている重要課題です.私たちは,高精度な化学分析手法や種々の実験的検討により,世界最先端の課題にアプローチしています.


<関連する研究成果>

Nozaki et al. (2016) Scientific Reports 6, 22163.  UTokyo Focus

Takaya et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.  UTokyo Focus   **Scientific Reports誌 "Journal Top 100" (全分野中,閲覧数第14位)**

Yasukawa et al. (2018) Ore Geology Reviews 102, 260-267.



資源工学・地球化学に対するデータ科学の適用


近年のデータ科学の発展は目覚ましく,様々な分野への適用が進んでいます.その有用性は地球化学データの解析に対しても例外ではありません.私たちは,最先端の高精度化学分析によって得られる多元素の地球化学データセットに潜む資源成因や環境変動の痕跡を,多変量解析などのデータ科学的アプローチにより読み解く研究を進めています.


<関連する研究成果>

Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.  UTokyo Focus   **Scientific Reports誌 "Editor's choice" に選出**

Yasukawa et al. (2019) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 20, 3402-3430.  **Geochemistry, Geophysics, Geosystems誌 "2018-19 Top downloaded paper" (ダウンロード数上位10%)**



気候変動のメカニズムの解明と対策の検討


人類にとって喫緊の重要課題の1つが,気候変動 (地球温暖化) 問題です.人類活動に伴う加速度的な炭素放出が地球環境に対して長期的にどのような変化をもたらすのか,過去の温室地球の情報を記録した地質試料の化学分析・データ解析や地球表層における元素循環の数値シミュレーションなどにより明らかにしたいと考えています.これは,現在進行中の気候変動に対して人類が今後取るべき緩和・適応策についての重要な指針になり得ると考えられます.また,具体的な地球温暖化対策として,二酸化炭素と地殻の岩石を反応させ,炭酸塩鉱物として固定する可能性を提案しています.


<関連する研究成果>

Takaya et al. (2015) Applied Geochemistry 58, 78-87.

Yasukawa et al. (2017) Scientific Reports 7, 11304.  UTokyo Focus

Takaya et al. (2019) ACS Earth and Space Chemistry 3, 285-294.



全地球史の解読


地球が誕生して以来46億年の間に,地球表層環境がどのように変動してきたのか,その全容を解明したいと考えています.地球表層で堆積した堆積物 (堆積岩) に残された地球化学的証拠 (微量元素濃度やSr, Os同位体など) を解読し,海底に噴出した火山岩と海水との化学反応やそれに伴う物質収支を考察しています.世界最古の地質体から現在の海まで,幅広く研究しています.


<関連する研究成果>

Kato & Nakamura (2003) Precambrian Research 125, 191-243.

Nakamura & Kato (2004) Geochimica et Cosmochimica Acta 68, 4595-4618.

Kato et al. (2006) In Memoir of the Geological Society of America Vol.198.

Kato et al. (2009) Earth and Planetary Science Letters 278, 40-49.

Nozaki et al. (2019) Scientific Reports 9, 16111.  プレスリリース



研究対象


レアアース泥


私たちは,太平洋の深海底に降り積もった堆積物 (泥) が産業上極めて重要なレアアース (特に重レアアース) を高濃度で含んでいることを世界で初めて発見し,これを「レアアース泥」と名付けました.レアアース泥の資源量は陸上の埋蔵量の1000倍に達すると推定されます.さらに,希酸で容易にレアアースを回収できることや陸上鉱床でレアアース開発の障害となっているトリウム・ウランといった放射性元素をほとんど含まないことなど,非常に優れた長所があり,将来の有望なレアアース資源になると期待されます.私たちは,世界最高品位のレアアース泥が日本最東端の南鳥島周辺の排他的経済水域 (EEZ) 内に存在することを突き止めました.その成因を解明し,効率的な探査手法を構築して,最終的にはこの南鳥島レアアース泥鉱床の開発を実現することを目指しています.




マンガンノジュール


マンガンノジュールは様々な有用金属を濃集した直径10 cm程度の金属の塊であり,世界の深海底に広く分布していることが知られています.私たちの研究グループは2016年に,海洋研究開発機構と共に有人潜水調査船しんかい6500を用いた調査を行い,南鳥島周辺のEEZ内にマンガンノジュールの巨大鉱床を発見しました.レアアース泥に加えてマンガンノジュールについても,将来の開発を見据えて,その成因や分布の解明に向けた研究を精力的に進めています.




IODP/DSDP/ODP コア


私たちは,日本やアメリカ,EUをはじめとして世界各国が共同で進めている「国際深海科学掘削計画 (IODP)」により採取された世界各地の深海堆積物掘削コア試料を用いた様々な研究を展開しています.過去の掘削航海で得られた試料は利用申請を出せば世界中の研究者が研究に用いることができます.私たちの研究室でもこれらを活用し,太平洋やインド洋におけるレアアース泥の発見や,過去の気候変動における地球システム応答の解明といった成果を挙げています.




陸上鉱床


プレートの沈み込み帯にある日本列島の地下では絶えずマグマが供給され,熱水活動を通じた鉱床形成が起こってきました.また,日本列島を構成する付加体中には,過去の海洋で堆積した鉱物資源がプレートの沈み込み時に付加し,現世の鉱床を形作っています.こうした陸上鉱床の成因を,レーザーによる微小分析や高精度同位体分析などを駆使して解明し,有望な鉱床の探査指針を構築するとともに,現在の海からでは得られない遠い過去の環境変動史を解明することも目指しています.




物理探査データ


海底鉱物資源の探査においては,分厚い水の壁によって電磁波が吸収されてしまいます.その代わりとなるのが,海水そのものを媒質として伝わる「音波」です.調査船から海底に向けて発した音波の反射を捉え,解析することによって,海底の地盤の硬さや海底下の堆積構造,さらには海水中の音速異常をもたらす海底熱水のプルームなど,鉱物資源の存在と直接関わる様々な情報が可視化できます.これらに対して画像解析や機械学習・深層学習といったデータ科学的手法を応用するなど,新しい高効率な資源探査手法の確立を目指しています.